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東京高等裁判所 平成4年(行ケ)156号 判決

長野県埴科郡戸倉町大字戸倉3055番地

原告

株式会社八光エンジニアリング

代表者代表取締役

坂原良一訴訟

代理人弁護士

田島弘

輔佐人弁理士

竹内裕

京都市下京区西堀川通四条下る四条堀川町267番地

被告

八木漁網株式会社

代表者

八木英行

訴訟代理人弁護士

平野静雄

同弁理士

志村正和

主文

特許庁が平成2年審判第2437号事件について平成4年6月18日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

主文と同旨の判決

2  被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

被告は、名称を「連結鋳鎖製造装置」とする発明の特許権者である(昭和47年7月5日登録出願、同51年4月17日出願公告、同年12月15日設定登録、以下「本件特許」という。)ところ、原告は、平成2年2月27日、本件特許を無効とすることについて審判を請求した。特許庁は、この請求を平成2年審判第2437号事件として審理した結果、平成4年6月18日、上記請求は成り立たない、とする審決をした。

2  特許請求の範囲1項に記載の発明(以下「本件第1発明」という。)の要旨

「事実上、相対的に接合および離遠の二つの位置をとり得る上型2および下型3によつて形成され、前記上型2には互い(「互いに」の誤記と認める。)相対的に接合および離遠の二つの位置をとる一対の上型あご部材4、5を配し、前記下型3には互いに相対的に接合および離遠の二つの位置をとる一対の下型あご部材6、7を配して、該それぞれの上型あご部材4、5および下型あご部材6、7のそれぞれの対向した面に半環状溝8を形成し、前記上型あご部材4、5および下型あご部材6、7とが完全接合状態にあるとき、前記半環状溝8を有する4つのあご部材により単一の完成環孔鋳型を形成するようにし、前記あご部材の少なくとも一つに湯口9を連絡すると共に、前記上型2および下型3にはそれぞれあご部材の接合部に鋳造された鎖環を前記環孔鋳型に対して事実上直交する関係で挿通を許容する窓孔11、12を形成したことを特徴とする連結鋳鎖製造装置。」(別紙図面1参照)

3  審決の理由の要点

(1)  本件第1発明の要旨は前項記載のとおりである。

(2)  請求人(原告)は、本件第1発明は、引用例(特公昭40-14326号公報)に記載の発明と同一であるから、本件特許は、特許法29条1項3号に違反し、同法123条1項1号により無効であると主張した。

すなわち、引用例には、仮想の縦軸に平行な4つに分割され、閉鎖と開放の二つの位置をとるブロック型9aを有し、縦軸において交叉する2つの直角な分割面の一方の面に中空室15を形成し、他方の面には関節長だけ下方へずらして半関節長に相当する中空室16を形成し、ブロック型が閉鎖され、4つのブロック型が完全に接合した状態にあるとき、中空室15は単一の鎖鋳造用の環状鋳型を構成し、この中空室15の上部には注入ノズル5に合わされる注入開口20が切り込まれており、鋳造に際しては、前記他方の面の半関節長の中空室16に先に鋳造された鎖を挿入保持して、下半分をブロック型の下方から外方へ露出させつつ、上方の中空室15に注入開口20から湯を注入して下方の中空室16に保持された鎖と直交する関係で鎖を鋳造して互いに連結すること、次いで、ブロック型の下方から外方へ露出した鎖の下半分をクランプヘッド10、11で掴み、鋳造後4つのブロック型9aを放射状に開放して鎖を下方へ引き出しかつ90度反転させて、上方の中空室15で鋳造された鎖を下方の中空室16に至らせ保持する。かかる工程を反復して連続的に行うことにより複数の連続した鎖を自動的に製造する機械が記載されている(別紙図面2参照)。

(3)  本件第1発明と引用発明を対比すると、以下の一致点及び相違点がある。

〈1〉 前者の「半環状溝8」、「湯口9」が、後者の「中空室15」、「注入開口20」に相当するから、両者は、相対的に接合および離遠の二つの位置をとり得る4つの部材のそれぞれ対向した面に半環状溝8を形成し、この4つの部材が完全接合状態にあるとき、前記半環状溝8を有する4つの部材により単一の完成環孔鋳型を形成するようにし、4つの部材の少なくとも一つに湯口9を連絡する連結鋳鎖製造装置である点で一致している。

〈2〉 半環状溝8を形成している4つの部材が、本件第1発明では、相対的に接合及び離遠の二つの位置をとり得る上型2及び下型3における、上型2及び下型3のそれぞれ互いに相対的に接合及び離遠の二つの位置をとる一対の上型あご部材4、5と下型あご部材6、7から構成されたものであるのに対して、引用発明では、仮想の縦軸に平行な4つに分割され、閉鎖と開放の2つの位置をとるブロック型9aから構成されるものである点、すなわち、両者は、半環状溝8を形成している4つの部材の形状・構造において相違している(相違点〈1〉)。

その作動について検討すると、本件第1発明では、一対の上型2、下型3が相対的に移動し、かつ上型2内で一対の上型あご部材4、5が、下型3内で一対の下型あご部材6、7がそれぞれ相対的に移動するものであるのに対し、引用発明では4つのブロック9aが放射方向に移動するものであって、環孔鋳型を形成する部材の動きの点でも相違している(相違点〈2〉)。

(4)  したがって、両者は、半環状溝8を形成している4つの部材の形状・構造及び作用が相違するから、同一ということはできない。

4  審決の取消事由

審決の理由の要点(1)、(2)及び(3)〈1〉は認めるが、その余は争う。本件第1発明は引用発明と同一発明であるのに、審決は、両者の対比判断を誤り、両発明には前記各相違点が存在するとしたものであるから、違法であり、取消しを免れない。

審決が指摘する相違点〈1〉、〈2〉は、単に文言上の相違にすぎず、技術上の相違に基づくものではないことは、以下に述べるとおりである。

(1)  部材の形状、構造に関する相違点〈1〉についてみると、本件第1発明と引用発明の鋳型は共に4つの部材から構成されている点で相違はない。本件第1発明は、この4つの部材のうち、2つを上型2とし、残り2つを下型3とし、上型2は2つの上型あご部材4、5からなり、下型3は2つの下型あご部材6、7からなることとしている。これに対して、引用発明は4つのブロック(9a)からなるものであるが、本件第1発明及び引用発明における以上のような各部材の名称は、表現方法上の相違にすぎず、共に鋳型を構成する型である点において相違がない。すなわち、本件第1発明の鋳型は、その特許請求の範囲1項記載の構成において、4つの部材の動きの方向については何らの限定もなされておらず、上下方向に配置されたり、上下方向に移動する部材であることを特許請求の範囲の文言上からは限定することができない。かえって、本件第1発明の明細書には実施例に関して「この発明の一実施例においては、分割された鋳型は上型、下型として上下に対向するものとして構成されているが、このような構成に限定されるものではなく、たとえば水平方向に対向するものとしても何らさしつかえない。ここにいう上型及び下型は、鋳型の鋳造の際一般的にいわれる名称であり、何ら位置関係を云い表しているものではない。」(本件公報4頁22行ないし29行)との記載があり、このことは、前記の上型、下型とブロック等の名称の相違は単なる表現上の相違にすぎず、この名称の相違をもって両者の形状、構造が異なるとすることはできず、引用発明の4つのブロックのうちの2つを上型とし、残りの2つを下型としてみても技術上は何ら支障がない。

そして、引用発明の4つのブロックは、閉鎖と開放の2つの位置をとるのに対し、本件第1発明は相対的に接合及び離遠の位置をとる点において相違するが、この点も単に表現上の相違にすぎない。引用発明のブロックは閉鎖の位置においては4つのブロックは互いに接合した状態にあり、開放の位置においては互いに離遠した状態にあるものであり、その動きは4つのブロックにおいて相対的に行われている。

してみると、引用発明の4つのブロックの2つを上型とみると、上型は2つのブロックで構成されこの2つのブロックは相対的に接合及び離遠の2つの位置をとっている。また、残り2つのブロックを下型とみると、これも同様に2つのブロックが相対的に接合及び離遠の2つの位置をとっている。さらに、これらの2つのブロックで構成される2つの上型、下型も相対的に接合及び離遠の2つの位置をとっている。

以上のように、審決が本件第1発明と引用発明の前記4つの部材が形状・構造において相違するとしたのは、表現上の相違にすぎないのであり、両者は実質的に同一の形状・構造といわざるを得ない。

(2)  環孔鋳型を形成する部材の動きに関する相違点〈2〉についてみると、審決は、本件第1発明は一対の上型、下型が相対的に移動し、且つ、一対の上型、下型内でそれぞれ一対のあご部材が相対的に移動するのに対し、引用発明は4つのブロックが放射方向に移動する点を相違点〈2〉として捉えたものである。

しかしながら、前述したように、両者の相違は、4つの部材のうちの2つを上型とみ、残りを下型とみたか否かの相違にすぎないのであり、引用発明の4つのブロックをこのようにみれば、本件第1発明と同一の動きであることは、前記のように、接合と離遠の動きと閉鎖と開放の動きが実質的に同一であることから明らかである。

第3  請求の原因に対する認否及び反論

1  請求の原因に対する認否

請求の原因1ないし3は認める。同4のうち、両発明の鋳型がいずれも4つの部材から構成されていることは認めるが、その余は争う。審決の認定判断は正当である。

2  反論

本件第1発明の鋳型構成部材の動きは、特許請求の範囲に記載されているように、それぞれ一対のあご部材からなる上型、下型を配して構成されているものであり、さらに、この上型、下型は、上型、下型を構成する一対のあご部材としてそれぞれ相対的に接合離遠の動きをするのであり、4つのブロックからなる引用発明のように単純に閉鎖と開放の動きするものとは異なる。したがって、審決の認定判断に誤りはない。

第4  証拠

証拠関係は書証目録記載のとおりである。

理由

1  請求の原因1ないし3は当事者間に争いがなく、本件第1発明と引用発明が審決摘示の相違点〈1〉、〈2〉以外の審決摘示の構成において一致することは当事者間に争いがない。

2  本件第1発明の概要

成立に争いのない甲第3号証(本件第1発明の出願公告公報)によれば、本件第1発明の概要は、以下のとおりである。

すなわち、本件第1発明は、一連の鋳鎖の製造に関する発明である。従来、このような一連の鎖を鋳造する場合においては、個々に鋳造した単環を一個おきの間隔に並べて置き、その間に鋳型をあてて連結環を鋳造する方法が採用されていた。このような従来の製造方法では、単環の製造工程とその連結工程の2工程を必要としたことから、時間的、労力的に不経済であり、生産効率が悪いという問題点を有していた。そこで、本件第1発明においては、特許請求の範囲1項に記載の構成を採択することにより、上記の2工程を解消し、連結した鋳鎖を連続製造することを可能としたものである。

3  取消事由について

(1)  まず、本件第1発明の上型2及びこれを構成する上型あご部材4、5並びに下型3及びこれを構成する下型あご部材6、7の形状及び構造について、以下、検討する。

まず、特許請求の範囲(1)項の記載に即して検討するに、上記記載が請求の原因2項に記載のとおりであることは当事者間に争いがなく、上記記載中の「事実上、相対的に接合および離遠の二つの位置をとり得る上型2および下型3によつて形成され、前記上型2には互い(「互いに」の誤記である。)相対的に接合および離遠の二つの位置をとる一対の上型あご部材4、5を配し、前記下型3には互いに相対的に接合および離遠の二つの位置をとる一対の下型あご部材6、7を配(する)」との記載部分によれば、上型2は一対の相対的に接合及び離遠可能な上型あご部材4、5から、下型3は一対の相対的な接合及び離遠可能な下型あご部材6、7からそれぞれ構成されるものであることが明らかであり、また、「それぞれの上型あご部材4、5および下型あご部材6、7のそれぞれの対向した面に半環状溝8を形成し、前記上型あご部材4、5および下型あご部材6、7とが完全接合状態にあるとき、前記半環状溝8を有する四つのあご部材により単一の完成環孔鋳型を形成する」との記載部分によれば、上記の各一対の上型あご部材4、5及び下型あご部材6、7は、各上型あご部材と各下型あご部材との接合面、すなわち、各対向面にそれぞれ半環状溝8を形成しており、これらの4つのあご部材の前記の各対向面が完全に接合した状態によって形成された接合平面上に、前記の4つの半環状溝8が、一個の完成環孔鋳型を形成することが明らかである。そして、「前記あご部材の少なくとも一つに湯口9を連絡すると共に、前記上型2および下型3にはそれぞれあご部材の接合部に鋳造された鎖環を前記環孔鋳型に対して事実上直交する関係で挿通を許容する窓孔11、12を形成したことを特徴とする連結鋳鎖製造装置。」との記載によれば、前記の4つのあご部材の少なくとも一つには湯口が連絡していることを必要とし、また、前述した4つのあご部材の完全接合状態によって形成された環孔鋳型の存在する平面と直交する上型あご部材4と5及び下型あご部材6と7とが形成する接合面に鋳造済みの鎖環の挿通を可能とする窓孔を備えていることを特徴とする連結鋳鎖製造装置であることが明らかである。そして、上記特許請求の範囲(1)項の記載によれば、鎖環鋳造のための鋳型について、「上型2、これを形成する上型あご部材4、5」及び「下型3、これを形成する下型部材6、7」として「上」及び「下」なる表現を用い、一見、鋳型を上下にのみ配設することを予定している如くであるが、例えば上型と下型を左右方向(水平方向)に対向して配設し、上型あご部材、下型あご部材をそれぞれ接合、離遠させることによっても鎖環を鋳造することが可能であることは上記記載から技術的に明らかであり、かつ、その作動方向について「接合および離遠の位置をとる」と定めるのみで、それ以上の限定が付されていないことからみて、同項における「上型」、「下型」の表現にもかかわらず、鋳型の配設関係についても特に限定が付されていないものと解するのが相当である。このことは、次に検討する本件明細書の発明の詳細な説明の記載からも裏付けることができる。すなわち、本件第1発明における上型、下型の配設関係及び作動方向について、本件明細書の発明の詳細な説明の欄の記載に即しながら、本件第1発明の実施例により具体的に検討するに、前掲甲第3号証によれば、本件第1発明の基本的構造は、鎖を鋳造するための4つのあご部材からなる鋳型、鋳造された鎖の把持機構、及び、連結製造された鎖環の送り出し機構からなること(3欄18行ないし25行)、本件第1発明の主要部である鋳型1は、いずれも一対のあご部材からなる上型2(上型あご部材4、5)及び下型3(下型あご部材6、7)からなり、上型あご部材4、5及び下型あご部材6、7には、各上型あご部材同士及び下型あご部材同士が接合することにより上型及び下型の各対向面にそれぞれ環状孔を形成するように半環状溝8が設けてあること(3欄26行ないし39行)、そして、各あご部材の運動方法を示す一例として示されたものにおいては、上型あご部材4を機体に対して定位置に配設し、他方の上型あご部材を別紙図面1の第1図の矢印A方向に往復動するように配設し、下型あご部材6は上下に摺動する機構から成る上下動台10に一体形成し、他方の下型あご部材7は上下動台10の上を前記第1図の矢印B方向へ往復動するように配設した実施例が開示されていること(同欄44行ないし4欄11行)、さらに、上記の実施例では、分割された鋳型が上型、下型として上下に対向するものとして構成されているが、このような構成に限定されるものではなく、例えば、水平方向に対向するものとしても何ら差し支えがなく、上型、下型の名称が何ら位置関係を意味するものではないこと(同欄22行ないし29行)、の各記載が存在することが認められ、他にこれを左右する証拠はない。

以上の各記載は、本件第1発明の半環状溝8を形成する4つの部材である上型あご部材4、5及び下型あご部材6、7の形状・構造は、要するに、これら4つの部材の各対向面が完全に接合した状態において、各部材に形成した半環状溝が一つの完成環孔鋳型を形成するものであれば足りるのであり、前記のとおり、上型、下型との名称によって何らその位置関係が限定されるものではないことを技術的に明らかにしているものということができる。なお、上記の4つの部材の作動についてみると、要するに、半環状溝を有する4つの部材が接合することにより、完成環孔鋳型を構成し、鎖製造後はこれを開放し得るように作動可能であれば足りるのであり、本件第1発明の特許請求の範囲の記載中にその作動方向を限定する趣旨の記載を見出すことはできないことは前述のとおりであるし、また、前記認定の本件第1発明の技術内容に照らすと、作動方向を限定することに技術的意義を見出すこともできないものというべきである。

(2)  そこで、次に、引用発明の4つのブロック9aの形状・構造及び作動について検討する。

成立に争いのない甲第2号証(引用例)によれば、引用発明は、「連続作業工程において注入鋳込みをなし得る材料から互に同一な閉鎖した部材より成る任意の長さの鎖或は鎖類似の型物を作る機械に関(する)」ものであり(1頁左欄下から22行ないし20行)、引用発明に使用される鋳型は、「鎖関節の縦の軸線に平行に四つの4分ブロツクに分割され、従つて仮想の軸線に於いて交叉する二つの相互に直角な分割面が生ずる。両分割面にはほぼ鎖の関節の内法だけずらされて、前記ブロツクには鎖関節の雌型に対応する一つの宛の中空の型が加工されている。前記上側の中空の型は注入鋳型として役立つものであつて、これは鎖関節の上側の弧として又分割軸においては注入ノズルに合わされた注入開口が切り込まれているが、下側の中空型は次の(先に注入された)鎖関節に対する受けとして役立ち而してほぼ半関節長に至るまで延びて開放して居り、以つて鎖のこの(第2の)中空型の中に懸架される関節が通されるようになっている。」(1頁右欄11行ないし22行)との記載が認められるところ、この記載によれば、引用発明も本件第1発明と同様に連結鋳鎖製造装置ということができ、鎖を製造するための鋳型を構成する4つのブロックは、それぞれ鎖関節の縦の軸線(仮想の軸線)に対して直角の2つの分割面で接するように構成されており、その分割面の一つには鎖関節の雌型に対応する中空の型と、他方の分割面には鎖関節の内法だけずらされて先に注入された鎖関節に対する受けとして役立つ下側の中空型がほぼ半関節長の長さで延びていることが明らかである。

そこで進んで、引用例記載の実施例に基づいて検討するに、前掲甲第2号証によれば、「注入装置9は図示の実施例では交換し得る4ブロツク的部材片9a第4図(別紙図面2の第4図を指す。以下、本引用箇所に掲記の図面はすべて別紙図面2に記載のものである。)より成り、これは等は(「これらは」の誤記と認める。)4分された外枠により、鳩尾状の案内溝に収容されている第2図。注入される鎖の関節Kは、第5図に示すような横断面を有する簡単な長い形第1図を有している。・・・前記ブロツクは尚後段に記述さるべき鎖関節に対する型をも具えている。この4ブロック的型は第2図に矢9Cで示すように、四つの方向に同等に且同時に油圧的又は圧縮空気的に或は曲り梃杆装置により鎖の関節の太さより稍々大きく開放される。」(2頁左欄22行ないし33行)、「前記型は主たる特徴として二つの棚を具えている。第一のものは、上側の棚でこれは注入棚15で、第2の下側の棚は、90度引廻された挿入棚16である。両者の棚は、第4図に示すように互いに直角に配置された型の分割面に彫られた相互に入り組んだ中空型により成り、これ等は鎖関節の雌型となつている。」(同欄36行ないし41行)、また、引用発明をプログラム制御で行う場合の製造工程について、「従つて動作のサイクルは六つの行程(「工程」の誤記と認める。)において経過する。即ち4ブロツク型の閉鎖-注入-ブインガ注入ノズルの最初の態勢への復帰-型の開放-一つの鎖関節長だけ鎖を引出すこと-クランプヘツドを90度だけ回転させることにより成る。」(2頁右欄46行ないし50行)との各記載が認められ、これらの記載によれば、引用発明においては、4つのブロック的部材片9aの互いに直角に配置された分割面に彫られた注入棚15が4ブロック型が閉鎖することにより一つの鎖の完成鋳型を形成しこの鋳型の中に鋳込材料が注入された後、続いて4つブロック型が開放され、できた鎖は引き出され、90度回転されて挿入棚16に収納され、再び前記のブロック型の閉鎖-開放という工程が繰り返されるものであることは明らかである。そして、前掲甲第2号証によれば、引用発明の特許請求の範囲においては、「・・・鎖の関節Kの縦の軸線に対し、四つの象限のブロツクに分割された型9が設けられ、そのブロツク9aには、両分割平面内にほぼ鎖関節の内法の幅だけずらされて、一つ宛の雌型的に鎖の関節の形に対応する中空室15、16が彫り込まれて居り、その中、上側のもの15は、鎖の関節の上側の弧状部分に於ける注入型として、及び前記分割軸に於いては注入ノズル5に合わされた注入開口20が切り込まれて居り、下側のもの16は先に注入された鎖関節の収容に役立ちほぼ半関節長まで達するだけとされ・・・」と記載されていることが認められるから、4つのブロックの形状・構造が前記認定の実施例に限定されるものでないことは明らかであるし、4つのブロックの「閉鎖」と「開放」に関する作動についてもこれを限定する趣旨の記載を前記特許請求の範囲の記載中に見いだすことはできない。

(3)  そこで、前記(1)、(2)に認定したところに基づき、本件第1発明及び引用発明の各鋳型を構成する4つの部材の形状・構造及び作動状況についてみると、両者の名称及び図面に表示の形状が異なることは既に認定したところから明らかなところであるが、本件第1発明の上型あご部材4、5及び下型あご部材6、7の構造・形状は、既に認定のように、これら4つの部材同士の各対向面が完全に接合した状態において、各部材に形成した半環状溝が一つの完成環孔鋳型を形成し得る形状・構造であれば足りるのであり、それ以上にこれら部材の形状・構造を限定するものではないところ、引用発明における4つのブロックの分割面に彫られた中空型(実施例における注入棚15)が4つのブロック型の閉鎖により一つの鎖の完成鋳型を形成し得る形状・構造であれば足りるのであるから、両発明の前記鋳型を形成する4つの部材の形状・構造が異なるとすることはできない(なお、審決は、本件第1発明の窓孔11、12と引用発明の中空室16との関係については言及していないので、この点については触れないこととする。)

次に、前記の4つの部材の作動状況についてみるに、本件第1発明がその作動を「接合」と「離遠」と呼び、引用発明が「閉鎖」と「開放」と称していることは前記認定のとおりであるが、両発明における作動の技術的意義が4つの部材の接合面に設けられた半環状溝ないしは中空型の接合による一つの鎖の完成鋳型の完成と鋳込材料注入後における鎖の取り出しにあることは既に述べたとおりであり、しかも、両発明においても、特に作動方向を限定する趣旨のないことは前述したとおりであるから、この点においても差異があるとすることはできない(審決が摘示した当事者間に争いのない引用例記載の構成と本件第1発明の構成を具体的に対比すると、本件第1発明において、上型2の上型あご部材4、5と下型3の下型あご部材6、7を左右方向(水平方向)に対向させ、各あご部材により4つの部分に分割されている接合面を上面及び下面となるように配設すれば、上記引用例記載の構成と一致することになるのである。)。

そうすると、審決が、両発明は前記4つの部材の形状・構造及び作動において異なるとした判断は誤りというべきであり、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、その余の点について判断するまでもなく、審決は違法として取消しを免れない。

4  よって、本訴請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 濵崎浩一 裁判官 田中信義)

別紙図面1

〈省略〉

〈省略〉

別紙図面2

〈省略〉

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